お寺からのメッセージ

2021

10神無月

October

「花の御教え」

先日、新聞に『「焦(あせ)る」』と『「焦(じ)れる」』というコラムがあった。自分が何とかしなければならない時が「焦る」。自分ではどうにもならない時が「焦れる」。約束の電車に乗り遅れたときは焦る、一緒に行く人がなかなか来ないときは焦れる、という具合。不安な時、焦れて焦れて居ても立っても居られない時に、焦らず落ち着いてずっとそばで見守ってあげる、相手の気が済むまで待ってあげる、そのことを仏教では「忍辱」という。

忍辱(にんにく)はよく、花に例えられる。花を見て心が沈む人はいない。ほっとする、見る人の心を和ませてくれるそんな存在である。でも、花自身はどうなんだろう。皆を和ませようと思って咲いているだろうか。花は、ただそこで咲いているだけ。ただいるだけで人の心を和ませてくれるのである。そして、私たち誰もが本来、そんな花のような心が備わっているのだと、お大師様はお説きになられた。

焦らずに、じっと相手を待ってあげられるような花の如く、いつまでもきれいに咲き続けますように。仏前にそな減られた花には、仏様から私たちへの尊い願いがかけられている。

 

高福寺 楠本隆幸